古今東西、多くの詩人たちの作品、
〈潮騒の詩集〉
”亡き人に”
雀はあなたのように
夜明けにおきて窓を叩く
枕頭のグロキシニヤは
あなたのように黙って咲く
朝風は人のように
私の五体をめざまし
あなたの香りは午前五時の寝部屋に涼しい
私は白いシイツをはねて腕をのばし
夏の朝日にあなたのほほえみを迎える
今日が何であるかをあなたはささやく
権威あるもののようにあなたは立つ
私はあなたの子供となり
あなたは私のうら若い母となる
あなたはまだいる其処にいる
あなたは万物となって私に満ちる
私はあなたの愛に値しないと思うけれど
あなたの愛は一切を無視して私をつつむ
亡き智恵子は、「風」のように訪れ
そこに伴う「香りは部屋中を満たす,
と光太郎は言い、死者となった智恵子を
以前よりも近く、そして強く感じている。
ここに見られるのは、肉体を介さない、
心と心、さらにいえば、
「たましい」と「たましい」のふれあいです。
「私はあなたの子供となり、
あなたは私のうら若い母となる」
という言葉に示されているように、
智恵子は光太郎の守護者でもありました。
「あなたは万物となって私に満ちる」
何かが存在する、というよりも、
偏在する仕方で光太郎は
智恵子を感じています。
〈詩と出会う・詩と生きる〉若松英輔(解説)引用
〈高村光太郎〉
1883年(明治16年)に、
彫刻家の高村光雲の長男として生まれる。
日本を代表する彫刻家であり、画家でもあったが、
今日にあって、「道程」「智恵子抄」などの
詩集が著名で、教科書にも多く作品が掲載されており、
日本文学史上、近現在を代表する詩人として
位置付けられる。著作には評論や随筆、短歌もあり、
能書家としても知られる。(wikipedia引用)