(店内を見渡して、中央に置かれた、天板にガラスがはめ込まれた細長いテーブルの
端の方に、そっと一冊だけ置かれた雑誌が目に入った。)
「あ~これですね!マジっすか!すごい!」
「懐かしいだろ!」
「すっごい懐かしいっすね!
これ見ていいんすか?」
「いいよ!天板の上に置いてあるのはサンプルだから。」
(サンプルと書かれたその雑誌を手にとって、ソファーに
ゆっくりと座り直した。)
「”湘南スタイル”お~キタ~!懐かしい~!」
(表紙をマジマジと見ながら、
そのロゴだけで、こころの奥から、何かわからない感動みたいなものが
ジワジワと溢れ出てくるような感慨にしばし耽っていた。)
(一ページ一ページ、味わうようにめくっていきながら、)
「やっぱ、いいっすねぇ!この感じ!」
「いいよなァ!特にフーさんは、たまんないだろ!」
「家から車から、ファッションまで、
その世界観だったからなァ!」
「そうっすね!懐かしいっすよ!」
「っていうか、今もそのスタイルなんすけどね!」笑。
「そうなんだ!やっぱり筋金入りだな!」笑。
「いえいえ!ハートの奥がそのスタイルで、もう
家(湘南仕様)も車(ボルボ)も手放しちゃったし、
たま~に、そんなファッションをする程度っすけどね!」笑。
「いやいや!ハートの奥が人間、一番大事なんだよ!」笑顔。
「なんか思い出しますね!毎週毎週、海に行ってたのを!」
「そうだなァ!懐かしいなァ~!よく行ったなァ!
今日は日向、今日は蒲江、行けるポイント全部行ってたなァ!」笑顔。
「行きましたねぇ!小倉ヶ浜、金ヶ浜、美々津、伊勢ヶ浜、元猿、波当津、」
「空港横も、奈多も、潮によっては、北まで遠征したなァ!」笑顔。
「そうっすね!奈多でゴッサンが神になったんすよね!」笑。
「そうだったっけ?」
「そうっすよ!奈多ですよ!あの時から
健ちゃんからゴッサンになったんすよ!
あの時はですねぇ!」
(少し天井を見上げるような眼差しで、
懐かしい想い出を紐解くような表情で、
ポツリポツリとゆっくり話し始めた。)
「あの日は大潮で、南は波が大きすぎるから、
フーさんにはちょっとキツイから北に行ってみよう!って、」
「そうそう!そうだった、そうだった!」
つづく。