【生きる】
〈詩人・谷川俊太郎〉
【生きる】
生きているということ
いま生きているということ
それはのどがかわくということ
木洩れ陽がまぶしいということ
ふっと或るメロデイを思い出すということ
くしゃみをすること
あなたと手をつなぐこと
生きているということ
いま生きているということ
それはミニスカート
それはプラネタリウム
それはヨハン・シュトラウス
それはピカソ
それはアルプス
すべての美しいものに出会うということ
そして
隠された悪を注意深くこばむこと
生きているということ
いま生きているということ
泣けるということ
笑えるということ
怒れるということ
自由ということ
生きているということ
いま生きているということ
いま遠くで犬が吠えるということ
いま地球が廻っているということ
いまどこかで産声があがるということ
いまどこかで兵士が傷つくということ
いまブランコがゆれているということ
いまいまが過ぎてゆくこと
生きているということ
いま生きているということ
鳥ははばたくということ
海はとどろくということ
かたつむりははうということ
人は愛するということ
あなたの手のぬくみ
いのちということ
〈谷川俊太郎プロフイール〉
1931年東京生まれ。詩人。
1952年第一詩集「二十億光年の孤独」を刊行。
以来2500を超える詩を創作。
海外でも評価が高まる。多数の詩集、散文、絵本、
童話、翻訳があり、脚本、作詞、写真、ビデオも手がける。
1983年「日々の地図」で読売文学賞、
1993年「世間知ラズ」で萩原朔太郎賞、
2010年「トロムソコラージュ」で鮎川信夫賞、
2016年「詩に就いて」で三好達治賞など。
代表作に「六十二のソネット」「旅」
「夜中に台所でぼくはきみに話しかけたかった」
「はだか」「私」など。
{新潮社}著者紹介記事引用。