(市の中心市街地のアーケード街の
真ん中あたりからちょっと脇道に入った所に、
何とも古びた、けれど少しモダンな、えもいわれぬ
趣きを醸す建物の共用階段の入り口に、
その店のネームプレートは、
さりげなく無造作な感じで掛けられていた。)
「波待ちダンディ」BOOKCAFE&BAR
階段に足を掛け、人一人には余裕の広さの階段を、
手摺りを頼りに一歩一歩登っていって二階の踊り場につくと、
ドアが開け放たれた状態のお店が、フッとさりげなく現れた。
開け放たれた入り口ドアには、海をバックに、細身で長身の、長い髪が
風に吹かれて、いい感じで佇むサーファーガールの等身大イラストが描かれて、
一瞬で気分は潮風と波音が打ち寄せる”波乗りジョニー”の世界に入ったような
【波乗りジョニー】桑田佳祐
青い渚を走り 恋の季節がやってくる
夢と希望の大空に 君が待っている
熱い放射にまみれ 濡れた身体にキッスして
同じ波はもう来ない 逃がしたくない
君を守ってやるよと 神に誓った夜なのに
弱気な性(さが)と裏腹なままに 身体疼いてる
いつか君をさらって
彼氏になって
口づけ合って 愛まかせ
終わりなき夏の誘惑に
人は彷徨う 恋は陽炎
嗚呼・・・蘇える
歌詩一部抜粋
「ちーっす!」笑顔
「おう!フーさん、来たな!」笑顔
(笑顔で振り返るゴッサンの
渋みが増して何ともダンディな顔は
20数年前の、何度も波間に交わした
笑顔のやりとりそのまんまの、
懐かしいというより、そのまま時がトリップ
したような、お互いボードに跨って、
遥か遠くの波を見ながら笑い合ったあの時に、
一瞬で帰ったかのような時の誘いだった。)
「ゴッサン!いい感じの店じゃないすか!」
「おう!ありがとう!まだまだだけどね!
もっと良い感じに仕上げていくよ!」
「しかしびっくりしましたよ!マスターから、
健ちゃんが店始めたよって聞いた時は。」
「だよなっ!俺もビックリだよ!」
「で、どうしてまた、始めたんです?」
「まァ、話せば長いような短いような、
まァ、座ってよ!このソフアー、さっき
届いたばっかだから、」
(革張りのアンティックな長椅子ソファーに
深く腰を沈めると、ゴッサンがすぐそばのカウンターで、
珈琲を淹れる準備をしながら、
店をはじめた、事の経緯を、ゆっくりと話し始めた。)
「いやァ、実はさァ、あれから3年くらいしてから、いや、5年くらいしてからか、
叔父さんの体調が急に悪くなってさァ、それで甥っ子が帰ってきてさァ。」
つづく。